今は昔、八幡村史に曰く
小高い丘陵に囲まれた八幡城の中の広大な庭
長老の狸は、明け方、長径12尺の平原を全速横断し、方丈で洗顔する余と彼岸此岸で出会った
代官、
腰に緋を纏った村から選別された
余を見もせず年老いた八幡狸は前方を走り、北の黒松の裾にかけこみ一息入れている
過日、余はあまりの被害に絶望、観念、祈願の境地に陥り
黒松の陰から瞬時こちらに見参した佐州狸に直接嘆願を決意していた
「余の子供を食い散らかさず、出来れば、部落の変死体を事後10年、そちらに都度差し出す故、これで勘弁ならぬか」
長老狸は義理立てするようにしばし、松の木の先端から視線をこちらに変えた
濁った大きな黒眼である
しばしの沈黙が流れ、雲を抜け出た太陽が長老の背骨を照らす
「無用なり、貴様等同様、我ら一族も生きるためにやっていることだ」
余が呆然と次の言葉を尋ねている間に
堅い毛の先端が黒光りのする佐州狸は黒松の陰から消えた
しばし、気と心を整え黒松の裾に近づくと首のない血だらけの代官の乳児が稲藁と糞にまみれてころがっている
南天の赤い実がかいま見える糞塚も形成されている
とうやら、彼らの獣道のようである
事後、村人はその黒松を